僕は英語コーチをしている。

ただ、教える側だからといって、英語学習が終わったわけではない。
今もまだ英語学習者だと思っているし、自分の英語に課題を感じることも普通にある。

以前、人気のオンライン英会話をやっていたことがある。

レッスンでは、それなりに会話ができた。
先生の質問を聞いて、自分の考えを英語にして返す。
英語を発するための、いわば「脳の筋肉」を鍛えるという意味では、かなり役に立ったと思う。

頭の中で文章をつくり、口から出す。

この動作は、実際に話さないと速くならない。
知っている単語でも、会話の中ですぐに出てくるとは限らないからだ。

その意味で、オンライン英会話をやる価値はあった。

でも、レッスンが終わったあと、何かが残っている感じがあまりなかった。

話せなかったわけではない。
むしろ、会話はできていた。

ただ、昨日まで使えなかった表現が使えるようになったとか、新しい言い回しを試せたとか、そういう成長の実感がなかった。

なぜだろうと考えてみると、毎回、自分がすでに使える単語や表現だけで話していた。

質問をされても、自分の知っている表現で答える。
言いにくいことがあれば、簡単な言葉に置き換える。それでも会話は成立する。

だから、「今日も英語で話せた」という感覚は残る。

でも、使っている英語は増えていない。

オンライン英会話が、英語力を広げる場所ではなく、今の英語力で会話を成立させる場所になっていた。

もちろん、今ある英語をスムーズに使えるようにすることも必要だと思う。瞬発力を鍛えるには、同じ単語や表現を繰り返し使う時間も欠かせない。

ただ、それだけを続けていても、少なくとも僕は「英語が伸びた」という感覚を持てなかった。

新しくインプットしたものは、実際にアウトプットしないと使えるようにならない。

単語帳で覚えた表現も、動画で聞いた言い回しも、「なるほど」と思っただけでは、自分の英語にはならない。

会話の中で使おうとして、うまく文章がつくれなかったり、途中で詰まったりする。
その負荷を通って、少しずつ自分のものになっていく。

たぶん僕は、オンライン英会話の中で、この負荷を避けていた。

話しやすいテーマを選び、話し慣れた内容を、知っている英語で話す。
それなら会話は進むし、気まずい沈黙も減る。

でも、楽に話せる時間と、英語が広がる時間は、必ずしも同じではなかった。

今オンライン英会話を使うなら、レッスン前に、その日に使いたい表現をいくつか決めると思う。

そして、普段の自分ならあまり話さないトピックを選ぶ。

仕事の話ばかりしているなら、教育や環境について話してみる。
日常会話が中心なら、自分の価値観や過去の失敗を説明してみる。

うまく話すことよりも、まだ使い慣れていない英語を使ってみることを優先する。

レッスン後も、「スムーズに話せたか」だけではなく、「新しく覚えた表現を使えたか」で振り返る。

そうすると、オンライン英会話は、ただ会話を楽しむ場所から、自分の英語を少しずつ広げる場所に変わる。

負荷がないほうが、レッスンは気持ちよく終われる。

でも、レッスン後に何も残らないと感じているなら、少し話しにくいテーマを選んでみてもいいのかもしれない。

うまく話せなかった日は、失敗した日ではなく、今まで使っていなかった英語に触れた日とも考えられる。

次のレッスンでは、昨日までの自分が使わなかった英語を、一つだけ使ってみる。

その小さな負荷が、本当の意味で英語を伸ばしてくれるのだと思う。